「過食」と「食べ過ぎ」。
使われる漢字は同じですが、それぞれの言葉が示すものは異なります。
過食は心身的ストレスから引き起こされる症状であって、単なる食べ過ぎやドカ食いとはちょっと違うんです。
細かい違いなので、ダイエット系の情報発信者さんでさえたまに混同しています。
ということでこの記事では、現在も過食症である私自身が、医学的な情報も踏まえつつ「過食」と「食べ過ぎ」の違いについてご紹介。
「食べ過ぎる自分が怖い」「過食症かもしれない」と不安を抱いている人へ、少しでもお役に立てれば幸いです。
「過食」の定義:「食べ過ぎ」との違いは?
そもそも「過食」の定義とは何なのでしょうか。
DSM-5が定めている摂食障害の診断基準によると、過食中の特徴として以下のようなものが挙げられるそうです。
過食のエピソードには、以下の3つあるいはそれ以上の項目が該当する。
引用:髙木州一郎『摂食障害のすべて』p56
- 普通よりずっと速いスピードで食べる。
- 満腹となり気分が悪くなるまで食べる
- 空腹感がない時、大量に食べる。
- あまりにたくさん食べているのが恥ずかしいので、一人で食べている。
- 食べた後には、自己嫌悪や抑うつ、罪悪感がある。
医学的な視点としてはこれが「過食」に該当するそう。
当事者目線でもこれは非常に的確な項目です。
このような学術的な側面を考慮しつつ、過食症経験者として考える「過食」と「食べ過ぎ」の違いは以下の4つ。
- 不快感や強い罪悪感があるかどうか
- 味わったり「美味しい」と感じたりするか
- 「絶対に人に見られたくない」「一人になりたい」と思うか
- 代償行為があるか(したいと思うか)どうか
あくまで私個人の考え方ですが、それぞれ詳しくご説明します。
不快感や強い罪悪感があるか
過食には強い自己嫌悪や罪悪感が伴い、うつ状態になります。
例えばビュッフェや宅飲みで満腹以上にたくさん食べて苦しくなるのは、誰にでもあることですよね。
ポイントは、お腹いっぱいになったときに抱く感情です。
- 「食べ過ぎ」の場合
「美味しすぎて食べる手が止まらない」
「食べ過ぎて苦しいけど楽しかった」といったご褒美的な感覚
- 「過食」の場合
「苦しいのに食べるのを止められない」
「食べた自分が情けない、辛い、泣きたい」といった激しい自己嫌悪
簡単に言えば良い思い出になるのなら食べ過ぎ、苦しい出来事になるのなら過食といったところでしょうか。
過食後の不快感には、夜にラーメンを食べる罪悪感とは違って、食べる自分そのものを否定する意識が伴います。
味わったり「美味しい」と感じたりするか
過食中はしっかり噛んで味わうことは無く、次々と口の中いっぱいに食べ物を詰め込みます。
もはや食べるより作業をしている感覚で、「美味しい」「熱い」といった感覚はほとんど認識していません。
よく噛んで味わったり、味変をしたりおかわりをしたりと、食事を楽しんだ結果お腹がいっぱいになったのなら食べ過ぎに留まるのではないでしょうか。
「見られたくない」「一人になりたい」と思うか
これは個人差がありますが、摂食障害患者は「過食中は食べている姿を絶対に見られたくない」という人が多いです。
過食衝動に抗えない自分を恥じる気持ちが生じます。
また人と居る時に過食衝動が起こると、一人になれないことにイライラしたり、人を追い出して食べ始めることもあります。
不安を感じたら「誰かと一緒に食べたいと思うか」「たくさん食べたことをエピソードとして人に話せるか」を考えてみましょう。
代償行為があるか
4つ目の大きな特徴は食後に代償行為をしている・したいと思うかです。
代償行為とは以下のように、過食を埋め合わせるための極端なコントロールをすること。
- 嘔吐や下剤乱用など排出行為を意図的に起こす
- 「お腹が空いても食べない」といった極端な絶食
- 「寝ずに運動」「○時間ずっとランニング」といった過度な運動
「お腹が空くまで食べない」といった、自分にとって無理のない範囲での調整行為は例外です。
代償行為の根底には太ることへ強い拒否反応、痩せへの強迫観念がはたらいています。
「痩せたい。食事を無かったことにしたい」という気持ちが強すぎると、それは過食のサインかもしれません。
「食べ過ぎて嘔吐」は病気?
食べ過ぎた結果吐いてしまった。
そこまでくると「病気なのでは?」と不安になるかもしれません。
しかし嘔吐の有無だけで摂食障害かどうかが決まるわけでは無いんです。
「吐いたら病気」「吐いてないなら大丈夫」なんてことは無く、嘔吐をしていなくても摂食障害に該当する人はいます。
摂食障害かどうかを判断したいのなら、注目するポイントは2つ。
- 排出行為を誘発しているか
- その理由が「太るのが怖いから」かどうか
食べ過ぎた結果吐くのではなく「食べたことを帳消しにしたくて自分で嘔吐を起こした」のなら、過食嘔吐に当てはまります。
「吐いた=病気」と安直に判断せず、そこに至るまでの経緯や感情を振り返ってみてください。
【経験談】食べすぎて気持ち悪いときの対処法
ここからは経験談として、私自身が過食後お腹が苦しくなったときにやり過ごす方法をご紹介します。
おすすめするのは以下の3つ。
- ボトムスの締め付けを緩め右向きで寝転がる
- スマホ、ゲーム、パズルなど両手が埋まることをする
- とにかく場所を変える
苦しさが治まるメソッドではなく、気休め程度のものですが、参考になれば幸いです。
右向きで寝転がる
まずスカートやズボンのホックを緩めたり、ゆるいゴムのボトムスに履き替えたりしてお腹の締めつけを緩めます。
そして右向きで寝転ぶ。
横たわるのが苦しい人は、クッションや座椅子を使ってもたれるようにします。
右を向いて寝ると、胃の形に沿って食べ物が大腸までスムーズに流れ、消化が進みやすいんです。
また経験則として、座っている時より寝転んでいる方が食欲が落ち着く傾向にあります。寝ながら食べるのは無理ですからね。
スマホ、ゲーム、パズルなど両手が埋まることをする
まだ食べようとしてキッチンの棚を漁る行為を防ぐため、手を使って集中できることをします。
スマホをいじる、ゲームをする、絵を描く、ネイルをする、家事をする、段ボールを千切る…
なんでもいいです。とにかく一定時間両手が塞がることをしましょう。
ちなみに私はよく「ナンプレ」をやってます。81マスに1から9まで入れるやつです。
一定時間たてば消化が進み、お腹が苦しくて苦しくて呼吸もしんどい状態はなんとかやり過ごせます。
とにかく場所を変える
もし動ける状態なら、少しでも良いので今居る場所から動いてみましょう。
近所を散歩したり、アパートの1回まで降りてみたり、自宅のソファから玄関に移動するだけでもOKです。
環境が変わることで一瞬でも食べる以外のことに意識が向くので、体の痛みや過食衝動が紛れる効果が期待できます。
可能なら10~20分くらい散歩ができればベスト。
その際はゆっくりゆっくり、体を労わってスローペースで歩きましょう。
食べ過ぎたときこそ、自分の身体に優しく接してあげてくださいね。
食べすぎて「病気かも」と感じたら
制御できない食欲に「摂食障害かも」「過食症なのかな?」と不安になったときは、精神科や心療内科を受診しましょう。
嘔吐や下剤乱用など排出行為を無理やり起こしている場合は、できるだけ早く病院へ行くことをおすすめします。
大きな病院や人気の心療内科クリニックは予約が埋まりやすいで、すぐに診てもらえないことも少なくありません。
排出行為は中毒性があり、回数を重ねるほど回復へのハードルが上がるので、違和感が生じた時点で動き出すのがポイントです。
まとめ
以上「食べ過ぎ」と「過食」の違いについて、過食症の私が考えるポイントを解説しました。
- 不快感や強い罪悪感があるかどうか
…「食べ過ぎ」は良い思い出に、「過食」はつらい出来事になる - 味わったり、美味しいと感じたりするか
…「食べ過ぎ」は食を楽しむが、「過食」は食べる作業になる - 「絶対に人に見られたくない」「一人になりたい」と思うか
…「食べ過ぎ」はエピソードになるが、「過食」は恥ずかしさや情けなさが生まれる - 代償行為があるか(したいと思うか)どうか
…「食べ過ぎ」は生理的に調整するが、「過食」は自らの意志で埋め合わせをする
- 「嘔吐=摂食障害」ではなく、太りたくない意志から自分で排出行為をしているか
医学的な情報も踏まえていますが、あくまで私自身の経験に基づくお話であることはご了承ください。
参考図書
今回の記事を作成するにあたり、参考にした書籍です。
どれも図書館や書店で取り扱いがあるものなので、詳細に知りたい方はチェックしてみてください。
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